ムーンウォーク

見上げれば見事な三日月。くっきりと、きゅっと上がったスマイルマークみたいな、細い月。絵本に出てきそうなかたちの月。それがうれしくて、高速を走る車の窓から、たくさん写真を撮った。道路が曲がるたび、車が向かう方向が変わるたびに、月も動いていく。あっちの窓から、こっちの窓から、スマホを向ける。けれどたくさん撮った写真はどれもブレブレで、月の美しさをこれっぽっちも再現できていなかった。

わたしの写真は、いつもそうだ。

花火、桜、入道雲、年の数だけ光が揺れるバースデーケーキ。わが子の写真ですら、スマホに切り取られると、なんだかよくわからない、ぼんやりとした一枚になる。それでも、なぜだか撮ってしまう。閉じ込めたくて、覚えておきたくて、わたしは必死に写真を撮る。

写真より、自分の目でしっかり心に焼きつけろという言葉は、ほんとうにその通りだと思う。わたしのつたない写真は、まるで感動の残骸だ。でも、カメラロールをさかのぼりながら、その残骸みたいな写真にふいに出会ったとき、不思議と感動や高揚感、かたちに残したいと思った気持ちがよみがえる。わたしが写真にとどめていたのは、ビジュアルではなく、感情なのだった。

写真は、高速から撮った三日月とスカイツリー。なぜか月がぽぽぽと重なり、夜空を歩いているみたいに見えた。

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