シュークリームは語る(かもしれない)
ひさしぶりに立ち寄ろうと思った喫茶店が、臨時休業だった。
ガーンと思いながらも、わたしにとってはよくあることで、店主の張り紙に「ハイまたこのパターンきましたー」と(半ばむしろオイシイと)思いながらも、駅に踵を返しぶらぶら歩く。ふと覗いた曲がり角の先に「手作り洋菓子工房」と書かれた小さな緑のテントがあった。おや、と思って曲がってみることに。
扉を開けると、濃密な甘くてこうばしい香り。
こぢんまりとした店内には、4〜5枚ずつ小分けされた素朴なサブレやバニラクッキー、紅茶が入ったものや、ピスタチオ、粉糖をまとったキッフェルンなど、種類も豊富に。さらにフィナンシェ、マドレーヌなどの焼き菓子もあって、たくさん、それはたくさん並んでいた。ついでに言うと、同じくらいたくさん、大小さまざまなテディベアも、所狭しとぎっしり。
ひとり、目移りしながらそわそわしていたら、奥からマダムが出てきて、笑顔で会釈して、また作業に戻っていった。
掲載された雑誌がたくさん置いてあったので、そうか有名なお店だったんだなぁと思った。良質な素材と手作業にこだわって、ドイツやオーストリアのオーソドックスな焼き菓子を中心に作っているそうだ。
小さく、ケーキのメニュー表があった。
クッキーを選んでお会計をしながら、「ケーキ、ここでも食べられるんですか?」とたずねると、「はい、生ケーキは店内のみなんですよ」とのお返事。
これは絶対おいしいはず……!と、「じゃあ、ぜひいただきます」と、シュークリームをお願いすることに。それが、冒頭の写真です。
たっぷり詰められたクリームは、ひんやりなめらかで、とろけるような……ではなく、きちんと舌の上にみちっとずしっと届く感じ。濃くておいしい。たまごと牛乳の砂糖の味がする。香ばしいシューも、鼻をうずめたくなるくらい、いい香り。小さくカットして添えられていたプチガトーは、フィナンシェで、こちらも、バターって最高〜とつぶやきたくなるくらい、しみじみとおいしい。
そのおいしさに、なんだか胸がいっぱいになって、すごくすごく満ち足りた気持ちになった。
新しさや古さ、有名・無名にこだわらず、自分の足でたどり着いた、自分の心に響くものを大切にしてけたらいいなぁ。その感動なら、きっと伝えたいと思えるし、伝える意味があるんじゃないか。(これは仕事をするうえでも、ずっと心に留めてきたことでもある)
新しく華やかな情報に疎いわたしは、職業柄いかがなものかと思うこともしばしば。でも、こういうライターがいてもいいのかもしれない。
思いがけず出合った誠実なシュークリームを食べながら、改めて、そんなことを思ったのでした。
ヴァイツェン・ナガノ
持ち帰ったクッキーも、もちろんとてもおいしかったです。