喫茶店の話
喫茶店のカウンターに座ると、普段は見えないものがいろいろ見えて楽しい。
目の前で、店主は黙々とコーヒーを淹れている。ここは自家焙煎にこだわりのある店で、一杯ずつ丁寧にドリップしてくれる。
ランチ時の店内は満席で、他のスタッフは、絶え間なくオーダーが入るホットサンドを作り続けている。
「ランチ、ハムチーとポテチ―ね!」との声が上がると同時に、後ろに置いたトースターで山型食パンを焼き、具を挟む。一度ぎゅっと手でおさえたら、ものすごい速さで5等分にし、お皿へ。ナイフを入れるザクザクザクっという音が、パンをかじった時の香ばしさを思わせる。手際がいい。余談だけど、私はサンドイッチはトースト派なので、この店のサンドイッチはとても相性がいい。凝った材料やとがった味つけがなく、「家で作れそう」な感じも、すごくホッとする。
店主が、コーヒーを淹れる合間を縫って、卵サンド用のサラダを作り出した。作り置きのゆで卵の殻をスルスルとむいて、卵スライサーで薄切りにすると、ボウルの中に入れ、マッシャーでつぶす。マヨネーズを入れ、塩を足す。結構塩を入れるんだな、と思いながらさらにみていると、味の素(多分)も入れていた。
普段、私は味の素を料理に使うことはないけれど、こういう店で使っているのを見るのは悪い気がしないから不思議。
使わないほうがいい、という意見もきっとあるだろうけど、味の素には味の素にしか出せない、昔懐かしい風味みたいなのがあって、それはそれで悪くない。(実際、老舗と言われる某サンドイッチ専門店を取材した時も、卵サンドの味付けは味の素だった。包み隠さず教えてくれたことで、なんだかすごく好感度が上がった)
喫茶店が好きだ。お客さんが少なくひっそりとした隠れ家的な店も魅力的だけど、どちらかというと、ひっきりなしに人が訪れ、混雑しているくらいの店が好ましい。
客は思い思いにゆっくり過ごすも、ほどよく入れ替わり立ち替わり、席が空くとスタッフが流れるようにテーブルを整え、次の客を迎え入れる。新聞片手にコーヒーをすするひとり客もいれば、商談っぽいサラリーマン3人組もいる。近所のおばあちゃんが2~3人連れだっておしゃべりに花を咲かせているテーブルもある。テーブル毎にいろいろだから、店内は雑多な音と話し声に包まれている。静かな空気に包まれてのんびり、という場所では決してないけれど、そこに満ちる人の気配や雰囲気が、なんとなく心地よくて落ち着く、ということもある。
考えことをしたり、何か新しいことを思いつくのはいつも、こんな場所だ。きっとそこには人がいて、それぞれの物語があるから、私は勝手にいろんなことに想像を巡らせる。それが、何か新しいことを思いつくきっかけになるのかもしれないな。
深煎りのコーヒーとハムチーサンドを食べ終えたころには仕事スイッチがしっかりオンになり、すこやかな気持ちで原稿に戻れたのだった。リフレッシュって大事、という話。