熱い風呂と、雑談と

家族内でトラブル。朝からささくれだった気持ちをなだめようと、子どもを保育園へ送ったあと、湯船に熱めの湯を張った。
自分のせいとも、子どものせいともいえる。夫がもっと役に立っていればともいえる。誰かのせいにできるような、でも実際のところ誰も悪くないような、それぞれの正義を貫きあいながら、ボタンを掛け違っていく。家族はいちばん小さな国であり、世界は家族の集まりである。

答えの出ない、うずまく思いを熱い湯に溶かしきり、ほかほかのからだでパソコンに向かう。途中、夫からLINE。親戚への所用の連絡を入れておいてほしいとの念押しで、もう10日ほど前から頼まれているのに、なかなか動き出せずにいた。今週土曜日の予定についてだから、もう数日しかない。わたしはこういうことがしょっちゅうで、特に両実家に電話しなければいけない用事があると、途端に気持ちが重くなる。
かけてしまえばどうってことはなく、楽しく1時間ぐらいしゃべることもある。それなのに、かけるまでが異常に時間がかかる。別に関係が特別悪いわけではないし、親戚相手だってそうだ。でも、ものすごく心づもりと気合がいる。エネルギーがいる。

出かけようとマンションのエレベーターに乗ったら、途中で乗ってきた女性に「寒いですね」と話しかけられた。さらに「このあと雨になるみたいだし、もっと寒くなるんですって〜」という。
「え〜、そうなんですね。そろそろあったかくなってほしいですよねえ。お仕事柄、寒いよりあったかいほうが良さそうですよね」
「そうなんですよ、でも暑すぎるのもねえ」
「あー、たしかに」
彼女はヤクルトの販売員をしており、今日も制服姿だ。そこでエレベーターのドアが開き、「では、また」と別れる。

これから雨が降るらしい、気温がもっと下がるらしい。わたしは歩きながら、ずっと反芻していた。そのあとに会ったひとにも「これから雨らしいですよ、寒くなるみたいです」と伝えもした。

なんでもない天気の話だ。スマホを開けば、瞬時に得られる情報だろう。そのなんでもない、なんてことのない情報が、誰かのことばで伝えられると雑談となり、空気が動き、ささやかな発熱が起こることに気づく。
きっとわたしは、ことばを交わした数十秒が、うれしかったのだ。

しゃべるのに時間がかかる。重い腰が上がらない。そのくせ声をかけられたらこんなにもうれしいし、どうでもいいおしゃべりを求めている。

(2024年3月5日付noteより加筆、修正)

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